ふるさとの手帖

市町村一周の旅

青森市の短く熱い夏、ねぶた祭りへ。【旧市町村一周の旅(青森県|8月3日―119日目)】

青森市の短く熱い夏、ねぶた祭りへ。【旧市町村一周の旅(青森県|8月3日―119日目)】

昨夜の長岡花火を経て、青森市に戻ってきた。自費の新幹線移動で、ルートは大宮駅経由になる。特に新青森駅まで向かう新幹線はすべて指定席で、数日前にかろうじて取ることができたのだった。大宮駅に降り立つと、長岡花火の2日目を見に行く群衆と、青森各地でひらかれている夏祭りを見に行く群衆が、同じプラットフォームを分かち合っていて、プチお祭り状態だった。

どれだけ日本を巡っても、ぼくには圧倒的に経験値が足りない。「ねぶた祭り」も見たことがなかった。旅人の端くれのぼくにとって、ねぶたには“聖地”のイメージがある。市民でなくても、「はねと」という踊り手として祭りにも参加できるし、行政の厚意によるキャンプ場もあるので、全国で出会った旅人同士が、ねぶた祭りで再会することも多い。ただ、ぼくはテントを装備していないし、ねぶた祭りを一度も見たことがないのだから、新参者の観光客として訪れることにした。


夕方の青森市は、ひとことで表すなら「嵐の前の静けさ」で、祭り衣装を身に纏う人たちは、夜の訪れをじっと待っていた。練習なのであろう、どこかのチームから「ラッセラー」の声が響いたり、太鼓の試し打ちが聞こえたりすると、その周辺全体がビビビッと反応するように見えた。祭りがはじまりやしないかって。いやいや、まだ空は明るい。まだ、まだまだ、じっと…。

祭りの始まりは19時で、青森市の日の入りは18時51分だった。お天道様がねぶたの時刻に合わせたのか空はみるみる薄暗くなり、昼から夜へと移り変わる黄昏時に、ねぶたの列が整った。空には淡い赤色の夕焼けが広がっていたが、ほとんどの人は、空よりもっと明るくなった存在を見つめていた。薄暮に光る美しいねぶたを。

19時00分、「パァン!!」と、空の彼方から、号砲が鳴った。誰もが合図だと一瞬でわかった。その瞬間、どっと歓声が湧き上がり、そして間髪入れず。

「ドドンド、ドンドンドンッ!!」

寸分の狂いもない、太鼓と笛と手振り鉦(てぶりがね)のお囃子が、祭りのギアを一気に上げた。

「ラッセラァー、ラッセラァァー!!」
「ラッセェーラッセェ、ラッセェラァァー!!」

ねぶた祭りの掛け声である「ラッセラー」は、“ラ”と“セ”の、たった二音しか使わない。この二音が、ねぶた祭りの熱さを表現しきるのだ。なんて簡素で、つよく、美しい日本語だろう。

「盛り上がってますかぁ!!いいですか、みなさん!!青森の夏は、短いんです!!」

はねとを導くリーダーが、観客にも聞こえる話術で盛り上げる。

今日見た展示にも、このようなことが書いてあった。

“北国の短い夏、魂を熱く燃やし、燃え尽きるまで祭りに酔いしれる”

まさに、それを表す青森の夏が、目の前にあった。

かつて見たねぶたの山車は、展示中の動かないねぶただった。そして、その山車はちょっと冬眠している状態だったのだと、つくづく思わされた。曳き手たちが、夜にねぶたを曳くからこそ良いんだ。この感覚は、直接見ないと、わからないのかもしれない。もしくは、そうやって、わかったふりをしているだけなのかもしれない。ただとにかく、生で見るねぶたの山車は、生きているようだった。目の前に近づくと迫力が増して嬉しいし、笛の合図でぐるりと一回転すると、いっそう煌びやかだった。拍手が沸き起こった。前から見ても後ろから見ても綺麗だった。遠目で見ても風情があった。

ねぶた祭りは毎年8月2日から8月7日に開催される。にい、さん、しーと数えると、合わせて6日間ある。ほぼ一週間だし、いろいろな準備もあるだろうから、想像以上にロングランなのかもしれない。

しかし。2日目だったこの日に感じたエネルギーは、もう見ているだけで、「声ガラガラになるでぇ」「二の腕が腱鞘炎なるでぇ」「ふくらはぎパンパンなるでぇ」と、はねともお囃子も曳き手も、全力の全力だった。そして、その姿は揃ってカッコよくて、肌に艶があって、目に輝きがあった。とても羨ましかった。沿道で幼稚園ぐらいの子どもたちが、太鼓を叩くそぶりをしたり、ラッセラーと唄ったり、憧れの眼差しをいだいていた。やがて大きくなったら、きっとあの群衆の中心にいるのだろう。ここに来れて、ありがたい機会だったなあと、心から思う。

この一度きりの短い命を、ねぶたよろしく、熱く燃やそうじゃないか。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

RECENT ARTICLES

山から海へ下りていく。阿品台のおじいさんとの出会い。【旧市町村一周の旅(広島県|5月21日―411日目)】

山から海へ下りていく。阿品台のおじいさんとの出会い。【旧市町村一周の旅(広島県|5月21日―411日目)】

今日は昨日と同じく山間部を進みつつ、最後には海へ下りていきました。そこではおじいさんとの出会いもあり。それでは振り返っていきましょう。今日までの旅メーター訪れた政令指定都市の区の数 【87/171】訪れた旧市町村の数【1...
自分の脚で巡るということ。【旧市町村一周の旅(山口県|光市 - 周防大島町|5月17日―407日目)】

自分の脚で巡るということ。【旧市町村一周の旅(山口県|光市 - 周防大島町|5月17日―407日目)】

朝、さっぱり爽やかな青空が広がっていて、気持ちのいい出発です。今日は光市から周防大島へ。周防大島は、ぼくが好きな民俗学者・宮本常一のふるさとでもあります。だからといって自分が大きく変わるわけではないかもしれないけれど、惹...
工場群の市街地と、山里の清流と。【旧市町村一周の旅(山口県|周南市 - 光市|5月16日―406日目)】

工場群の市街地と、山里の清流と。【旧市町村一周の旅(山口県|周南市 - 光市|5月16日―406日目)】

朝はしっかりと雨が降っていて、いつもよりも遅い10時半に出発しました。まだ、北の空には分厚い雲が見えるし、冷たい西風がちょっと痛い。それでも、雨雲の心配はなさそうなので、進んでいこう。今日までの旅メーター訪れた政令指定都...

Follow me