今日までの旅メーター
訪れた政令指定都市の区の数 【49/175】
訪れた旧市町村の数【445/2,093】 総計【494/2,268】スーパーカブの総走行距離
12820km
広大な釧路市を東へ北へ。(2023年9月2日(土)―149日目)
朝8時過ぎまで、雨が止むのを待つ。外に出ると十分に涼しくて、空は霧が混じったような分厚い雲で覆われている。
道中、生い茂る木々に囲まれていたり、広大な畑が広がっていたり、牛が放牧されていたり、ほとんどウインカーを出すこともなく、一本の国道をさまざまな景色が流れていく。
最初は帯広から音別まで、約80キロの旅だった。
旧音別町(釧路市)
旧音別(おんべつ)町は釧路市の飛び地のまち。あいだに白糠町を挟んで、釧路市の市街地まで40kmほど離れている。釧路市ではあるけれど、旧音別町で独立している形だ。
丘の上から市街地を見てみると、低い丘が長細く広がっていた。その手前に広がる集落の姿は、景色もあいまって違う国に来たようにも感じる。
観光交流施設の「ルート38 音別館おんぽーと」で、富貴紙の存在を知った。富貴紙は蕗の皮を原料につくる、音別地域の和紙。展示された紙を見ると、蕗の繊維が紙の中に残っていて、若干の凹凸もあり、独特の味を感じた。
市街地の中心を流れる音別川の写真を撮ろうと思って、橋を訪れる。そこに、ひとりのおじいさんが自転車を停めて、川の上流を眺めていた。目が合ったので、何を見ているのですかと尋ねたら、「ツルだよ」と。
えっ、ツルが川上にいる? 目を凝らすと300mほど上流に、タンチョウヅルと思われる姿が3羽いた。すごい! おじいさんがいなければ、まったく気が付かなかっただろう。それに、9月でもツルがいるんだ。もっと厳冬期の頃だと思っていた。「おん、たまにいるんだよ」とおじいさんは言った。
釧路市
釧路市に入ってから、霧がいっそう濃くなった。もちろん晴れた姿も見たいけれど、濃霧の姿もそれはそれで、嘘のない景色なんじゃないかと思えてくる。
工場と多くすれ違う。煙突から煙がもくもくとと出ている。「大きなまちだな…」と素直に思った。北海道の東に、これだけ立派なまちがあることに、やはり驚いてしまう。
釧路市立博物館で、どうやって釧路のまちが発展したのか、道東の動植物やアイヌの方々の歴史についてなど、いろんな展示をちょっと時間をかけて見た。
昆虫は、寒冷地だと成長できる期間が短いので、全般的にサイズが小さいと知った。イトウやサーモン、魚は大きいイメージだったので、昆虫は逆なんだな、と思う。
明治時代、釧路は漁村だけではなくて、釧路炭田の石炭や、松材をつかった製紙業も盛んになりながら発展した。鉄道も敷かれて利便性が良くなれば、人口も増加する。
カブで走っているとき、「鳥取」の地名を見かけて、鳥取? と思っていた。すると展示の中で、旧鳥取藩士が移住していたことが紹介されていた。明治30年以降、各県の農村から、団体で移住が行われていたそうだ。
旧阿寒町(釧路市)
釧路市の市街地から、同じく釧路市である阿寒湖まで、なんと80km弱ある。さすがに遠いし、心が折れそうにもなったけれど、行かなきゃダメでしょうと自分を奮い立たせる。
とはいえ、旧阿寒町の市街地は阿寒湖よりも40kmほど南に位置している。セイコーマートを見つけて、午後の良い時間だが朝食から何も食べていなかったので、せめて何か食べようとカブを止めた。そのとき偶然、隣に「牧場のソフト」と書かれた看板のソフトクリーム屋さんがあった。どうやら、並んでいる人たちは観光客ではない。車のナンバーを見ても、地元の人たちだ。地元の人たちが並んで食べるソフトクリーム、それは食べたい。元々セイコーマートに行くつもりだったが、先にソフトクリームをいただいたのだった。(そのあとおにぎりも食べた)。
阿寒湖のアイヌコタンを訪れるのは2回目になる。ぎゅっと左右に並ぶお店の雰囲気に、今回も圧倒される。お店で木彫作家さんと、直接話をすることもできた。その方の作品は、細かな彫りが加えられた木が、掛け時計として針も動いていた。すごい。
「26歳で阿寒湖にやってきて、かれこれ15年以上です」
27歳なので、ぼくもがんばりますと言ったら、大丈夫だよと笑ってくれた。
もうひとつ、阿寒湖のエコミュージアムセンターで、マリモの展示紹介があった。直径30cmを超える大型球状体のマリモになるのは、世界でも阿寒湖だけ。展示の中にマリモの湖底での様子を捉えた動画があって、それがすごく面白かった。
マリモがどうやって丸い形で成長すると考えられているか。阿寒湖には強い南風が吹きおろしてくる。風域の長さ(強さ)が一定の基準に届くと、湖面のマリモを回転させる。マリモは光合成で成長するので、回転することで均等に日光を浴び、丸い形で成長していく。
だが、なのに、マリモは転がって回転するのではなく、その場でぐるぐると回転するのだ。それがすごく面白かった。まるで見えないローラーがあるみたいに。その様子の動画を見て、「へぇ〜!」って、思うしかなかった。
弟子屈町の旅人宿昭栄さんへ。
阿寒湖を訪れたあと、弟子屈町にある旅人宿昭栄さんで宿泊した。2018年、2020年とお世話になったことがあって、今回は3年ぶりだ。
オーナーのさだひろさんは、ちょうど3週間ほど前にお子さんが生まれていた。よかったらと会わせてもらって、抱っこもさせてもらった。わあ、3週間かあ、と、尊いだとか、命は美しいだとか、そういった感想を持つことすらできなくて、命だ、と感じるばかりだった。
宿には日本人女性ひとり、スイス人男性ふたりの3人組が宿泊していた。男女の一組はカップルで、もうひとりは友人だと。その関係性、スイス人男性の友人もすごいな、と思ったことはさておき、夕食で彼らがつくっていた「ほうとう」をお裾分けしてもらった。毎日その日の気分で料理をつくっていると。山梨県の郷土料理でも、スイス人のふたりからすれば、日本の郷土料理だからね。
ヨーロッパで流行っているアニメはいくつかあるみたいだけれど、その中でも彼らは進撃の巨人がとても好きみたいで、食事のあと、進撃の巨人のアニメを一緒に観た。なんだろう、不思議な夜であった。
というわけで、今日の散策はここまで。まちは3つしか巡っていないけれど、移動距離がある中で、無事に進めることができてホッとしている。
カブで走っているとき、道路脇にもタンチョウがいた。近かった。そのまま通過したけれど、こうした風景があたりまえにあって、すごい。
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今回の旅をはじめる前に、自費出版の写真集「どこで暮らしても」を製作しました。東京23区を1200kmほど歩いて巡り、撮影した一冊です。売り上げは旅の活動費として、活用させていただきます。
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