今日までの旅メーター
訪れた23区内の駅の数 【42/490】
歩いた距離(目標2,000km)【135.4/2000】二子玉川から京王線まで、世田谷の住宅街を歩こう。—世田谷区—
数日前から口々に「寒い」という言葉を聞くようになった。1ヶ月前まで「暑い」が主流だったのだから、日本は忙しい。「気温の変化が急」と世間は言うけれど、あまりそうは思わない。「涼しい」日がたくさんあったもの。虫の音も、銀杏も、雲の形も空の色も、いたって順調だったよ。暑いや寒いみたいに、主張の刺激が極端じゃなければ、SNSで共感されない時代なのかなあと思う。
とまあ、今日は雲ひとつない秋晴れで、スカっとした世田谷区を歩いて行く。路線に沿って、路線を跨いで、結果的にはじめて1日に30km以上歩いた。まずは二子玉川駅から。
二子玉川駅
二子玉川駅はバランスの取れた街だ。駅ビルは充実しているし、隣には美しい多摩川がある。今日なんかは富士山も見えて、絶好のランニング日和でしょう。二子玉川(ふたこたまがわ)を二子玉(にこたま)と省略してもバランスが良いのだから、何もかもエリートに見える。
喜多見駅
二子玉川から一気に小田急線の喜多見駅へ向かう。1時間半歩いて喜多見駅へ到着した。小学校で朝の全校集会をしていて、「全校で集まれるようになったんだ」と嬉しくなった。駅から離れた住宅街では自転車の人が多い。わずかな立地の違いで、バス、自転車と交通手段が変化するのも暮らしの面白さだ。喜多見駅に着くと、ガード下にあるミスドの甘い香りに吸い寄せられた。これは最寄りの人にとっては油断できない誘惑ではないだろうか。
成城学園前駅
それにしても、この辺りは緑が充実している。住宅街の顔を持ちながら、意識的に緑地化が進められたようだ。森のような茂みを進んでみると、行き止まりだった。折り返そうとすると、同じく「行き止まりかあ」という雰囲気のお兄さんがポツンと立っていた。靴下にサンダルのラフな格好。お互いに目が合って、「あ、こんにちは」と同時に挨拶を交わす。
「狛江市から散歩してたんですよ」とお兄さんは言った。もっと聞くと、オーストラリアから3週間前に帰ってきたばかりだと言う。年齢はぼくのひとつ上。ワーホリだったらしい。いろいろ話しているうちに、豪州と日本の違いの話題になった。彼は言う、
「日本人はやさしいとか言いますけど、あれ嘘だと思うんですよね」
どきっ。ぼくはこの旅で、「東京の人もやさしい」と感じていた。
「向こうの人は周りに干渉しないんす。あと、思ったことをそのまま言う。日本人の言葉って、全然本音じゃないですよね」
どきどきっ。「そうですよね〜!」と返事しているぼくは、まさにそれだ。どうしようもない。
多分だけど、「やさしさの種類」の話だと思う。相手にとって、何がやさしさか。それは国によって違うに決まっている。茶道を少しかじっているけれど、茶会なんか壮絶な空気の読み合いだ。「正座、崩してくださいね」って言っても誰も崩さないし。でも「やさしくない」わけじゃない。広告業界の現場も「気遣い」が命だ。何度か手伝いをさせてもらったけれど、先輩の写真家さんは、本当に気配りを徹底していた。だから、日本人の空気を読むやさしさは、独特だし面倒だけれど、そういうものなんだと思う。どっちもやさしい。
お兄さんと、樫尾俊雄発明記念館の前の緑地を通って、握手をしてお別れした。オーストラリアに行ったら、ぼくも考え方が変わるんだろうなあ。
祖師ヶ谷大蔵駅
ウルトラマン商店街を抜けて、祖師ヶ谷大蔵駅へ向かう。商店街も駅周りも、規模感が心地いい。お昼時だったので、キッチングリーンさんでカツカレーを注文した。作業服の兄さん、老年のご夫婦、サラリーマン、次々お店に入ってくる。若い女性が入店して「いつものでいいですか?」と店主と合図を交わした。町に愛されているお店だなあ。店内ではテレビのニュースの音と、カツがジュワジュワ〜っと油で揚がる音が重なって、それだけでどこかほっとした。カツカレーは幸せを感じる美味しさだった。この町に住んでいたら、通いたい。
東京の中でもひときわ洗練された、シティな人たちの気配を感じた。「木梨サイクル」の前に集まっていて、もしやと調べてみると、木梨憲武さんのご実家だった。ハァ〜、やっぱり世界線が違う。
千歳烏山駅
小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅から、今度は京王線の千鳥烏山駅へ。電車だと突っ切れないけれど、住宅街を歩いて、路線から路線へのハシゴだ。
芦花公園駅
芦花公園駅の近くは団地が多い。また名前の通り、蘆花恒春園(ろかこうしゅんえん)という公園も近くにある。どちらも歩いてみることにした。
八幡山駅
八幡山には大学の後輩が住んでいる。いままで知り合いの住んでいる町に出かけることもなかったから、ここで生活しているのだなあ、となんとなく想像すると、不思議な気持ちになる。
千歳船橋駅
もう一度、小田急線の千鳥船橋駅を目指す。駅に着くと放課後の男子高校生が缶コーヒを渋く飲んでいて、ちょっと不安になった。すでに大人な街なのかもしれない。
経堂駅
日はもう沈みかけていたけれど、隣の経堂駅まで行ってみることにした。経堂にも知り合いが住んでいる。そして瀟洒な街だ。知り合いは「家族層が多い」と言ってたけれど、確かにシティな中高生とたくさんすれ違った。やっぱり小田急線は、全体的に大人なのかもしれない。
東京に来る前は、世田谷と言われたとき、自然食品か下北沢ぐらいしか分からなかった。本当は、いろんな路線があって、川があって、バスがあって、住宅街があって、いろんな暮らしがあるわけだ。東京も広いなあと、また今日も感じたのであった。
(以上です。読んでいただきありがとうございました。)
二十年前に住んでいたエリアで懐かしさもあり、駅周りのリニューアルで違う景色でもあり、しみじみ拝見いたしました。世田谷線沿線の方も楽しみです。井伊直弼と吉田松陰ゆかりの寺社が同じ沿線にあるのが不思議な縁だな、と思ったものです。