ふるさとの手帖

市町村一周の旅

夜の美観地区日記。

明かりは夜が更けても消えないまま、いつも静かなオレンジ色をしています。

昼間はなかなか歩く時間がない代わりに、夜になって、美観地区へ訪れる機会が増えました。夜というのはいいもので、人はさほどおりませんし、歩いた先の目的地がとくにないわけですから、その日の気分で道を選べるのです。そうしてさまよう先々で、オレンジ色の街灯はいつも変わらずまちを照らしていて、その変わらない色がこの土地を守っているようにさえ感じられます。

ここ最近は雨も多かったですから、美観地区の中心を流れる倉敷川も水かさが増したり、薄暗くても「おや」と思えるほどに茶色く濁っていたり、似ている景色のようでその日の特徴が現れるものだなぁと、旅をしていた時とは違う感覚で景色を感じている気がしています。雨の日でも散歩をしますが、大粒でなければ深緑の柳並木は雨を吸い込むようで、しっかりと耳を済ませなければしとしと、という雨音は大きく聴こえません。
夜という断片的な時間に散歩をしていますが、撮る写真は不思議とあまり同じになりません。いい写真を撮りたい、という気持ちはもちろん持ち合わせていますが、そのためだけに散歩をすると、どこか心に小骨が刺さったようで、またそれをわたしが主張することはおろかでもありますが、おおよそ、その日の心の状態に近い写真が撮れるのではないかな、というのがいまの印象です。


今日の日記は、「そういえばしばらくこの街を歩いたなぁ」と思いまして、とりとめのないことではありますが、観光もしづらい社会情勢ではありますし、そもそも夜の美観地区を歩こうと思えばこの辺りで宿泊するか、そこそこ近くの生活圏でなければ行けないわけですから、そのそこそこの生活圏を利用してそっと残しておけたら、というわけです。

終わりに。
倉敷川には白鳥が2羽いまして、わたしが近寄ると「くわっ」と鳴きながら近づいてきます。おおよそは食べ物をもらえるかもしれない、という理由のためだろうと思っていますが、もちろん餌は与えませんから、数分経つと諦めるようにその場を去っていきます。それでも最近になっていつも通り「よっ」と挨拶をすると近づいてフリフリとお尻をふってくれるようになって、もしかするとわたしのことを覚えてくれたのかもしれません。そうなれば、今まではただ自由で呑気で可愛いと思っていた白鳥にもわたしを認識する感情があるということでして、「なにを考えているのかな」としばらく眺めているうちに、その気づきと同時に、白鳥が少し寂しそうな目をしていることに気づきました。どうして寂しそうだったのかは分かりませんが、白鳥が態度をへんげさせたのではなく、自分と白鳥との関係がほんの少し変わったことで、見えている世界が変わっていました。

白鳥だって、人生はいろいろです。そのことに気づけて、良かったと思います。

COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 2 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. 私は夜の美観地区マニアです。倉敷出身で岡山市に住んでおります。広大卒でもあります(だいぶ先輩です)。
    ちょっと有名な観光地でありながら、意外なほどに夜が静かで、日が暮れてから散歩すると、何か得した気分になります。
    先日、巣ごもり時間を利用して(電子書籍ですが)写真集を出しました。立ち読みもできますのでよろしければお立ち寄りください。
    https://www.amazon.co.jp/Kurashiki-Nights-%EF%BD%9E%E5%80%89%E6%95%B7%E7%BE%8E%E8%A6%B3%E5%9C%B0%E5%8C%BA%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%EF%BD%9E-%E5%92%8C%E6%9D%9C-ebook/dp/B08BHKYCLJ/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E5%80%89%E6%95%B7%E7%BE%8E%E8%A6%B3%E5%9C%B0%E5%8C%BA&qid=1596703674&sr=8-1

  2. 高村様
    お返事が大変遅くなってしまい申し訳ありません。そしてコメントをいただきありがとうございます。仁科と申します。広島大学の先輩なのですね…!
    美観地区の夜はとても静かですよね、、わたしもこの時間はとても好きです。
    そして写真集を出されていらっしゃるとのこと、ぜひ拝読させていただきます!長年かけてお写真を取られていらっしゃるとのことで、わたしは足下にも及ばない思いです…。貴重なお話をありがとうございます。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

RECENT ARTICLES

Follow me