今日までの旅メーター
訪れた政令指定都市の区の数 【86/171】
訪れた旧市町村の数【894/2,094】総計【980/2,264】スーパーカブの総走行距離
24185km
にわか雨が降った夜だったが、朝には何ごともなかったかように晴れていた。今日は「甑島」という東シナ海へ浮かぶ島へ向かう。
上甑島、中甑島、下甑島と連なる甑島列島は、もともと4つの村が存在していた。2004年に旧川内市をはじめとするまちと合併し、現在は薩摩川内市になっている。
だから、前回の市町村一周の旅では、本土の薩摩川内市のみを訪れたので、甑島は訪れたことがなかった。そのとき「いつか行ってみたいな……」と強く思ったのであった。
そして、4年経った今日、いよいよ甑島へ向かう日になった。
フェリー乗り場の串木野新港へ向かう。出港時間よりもかなり早く港に着いた。まだ港には静けさがあるが、駐車場には多くの車が停まっている。
やがて、乗船券を買う窓口が開いた。乗船券を買う時間が最もドキドキする。島によって手続きが異なるし、島の人たちは自分たちの方法に慣れているので、初心者のぼくは迷子になるのだ。今日も車検証が必要ですとアナウンスがあったけれど、カブには車検証無いよな…と思った。
とはいえ、電話でカブの積載の予約は済ませていたので、順調に券を買えた。車検証のことも言われなかった。カブに貼る紙には名前が書かれていて、電話で伝わった名前は「ニシナカツキキ」だった。キツツキ科みたい。
それはさておき、船に乗れさえすればいいのだ。港にやってきた船は、結構大きいなあと思った。そして、出港時間よりもかなり早く、バイクや車の乗船が始まった。確かに、この船の大きさだと、時間がかかりそうだ。
そして、1時間15分の船旅が始まった。実質1時間ぐらいだが、港を離れて外海に出るとかなり揺れたので、寝るしかなった。一度寝てしまえばあっという間に、到着である。
長目の浜は天橋立のようだった。ー旧里村。(薩摩川内市)
里港へ到着した。結果的に、午後の高速船は時化で欠航したぐらいなので、かなり揺れた船旅だったけれど、無事に着いてよかったのだった。
旧里村は上甑島の玄関口にあたる。今日の宿も旧里村の地域だ。そこでまずは、ここから最も遠い下甑島を先に目指して、最後に旧里村の集落を歩くことにした。旧里村から下甑島の長浜港までは、30kmちょっとあるのだ。
ただ、次に訪れる旧上甑村を目指す前に、「長目の浜」と呼ばれる場所へ立ち寄った。急な山道をのぼった先からは、壮大な砂洲が見えて驚いた。天橋立のようだと思ったけれど、この景色は、ここに来ないと見られない。やはり唯一無二凄だと感じられた。
まちなみと甑大明神橋と。ー旧上甑村。(薩摩川内市)
次にやってきたのは、旧上甑村。道中は山が険しくて、風も強く、遠目からでも海は波立っている。長目の浜を、さっきとは反対側の「田之尻展望所」で眺めたあと、集落の中心地へ訪れた。
まちなみはいろいろ混ざっていると思った。屋根、壁、石垣、家の形……集落の中で、似ているようで違う。でも、バラバラなのではなく、統一感がある。つまり、似ている家並みだけが、まちの雰囲気をつくりだしているのではない。周辺の山や海、隣の集落との距離、そういった何でもない要素が、めぐりめぐってまちの気配を生み出しているように感じた。
細い路地と呼べそうな道も、車は慣れた感じでどんどん通過していった。それに、ヤマトのお兄さんが軽くちわーっすと笑顔で挨拶してくれたのも印象的だった。
下甑島の、静かな暮らし。ー旧鹿島村。(薩摩川内市)
さらに甑大橋を渡り、旧鹿島村へ入った。旧鹿島村は下甑島の北東部に位置するまちだ。中甑島と下甑島を結ぶ甑大橋は、令和2年に開通した橋で、これまたびっくりたまげるダイナミックな橋だった。風が相当強くて、とてもとてもゆっくり走った。
鹿島支所の周辺は、落ち着いたまちが広がっていた。赤や青の瓦屋根があったり、集合住宅があったり。雰囲気も上甑島や中甑島と似ているようで違う。元々、4年前に橋でつながった下甑島なのだ。そのときの暮らしの香りは、きっとまだあるだろう。
旧鹿島村からさらに南へ進み、旧下甑村の長浜港周辺の集落へ、やっと着いた。橋のおかげで陸路で行くことができたけれど、元々はそれぞれの島だったわけだ。同じ甑島列島でも、違う暮らしがいろいろと広がっていたのだろうということを、旧下甑村でもあらためて思った。
やや曇りがちの空から、たまに日差しが出る瞬間があって、そのときに見えるまちなみの姿はとても美しかった。ほんとうは下甑島の最南端にある手打集落まで訪れて、武家屋敷群のまちなみを見たかった。ただ、風が本気で危ないと思ったので、今回は市街地の長浜集落だけお邪魔させてもらった。ちょっと風で飛ばされながら、走っていたから。
そして、30kmちょっと走って、上甑島の旧里村の集落を目指す。とにかく風が強いので、戻るのにかなり時間がかかった。
ようやく集落まで戻ってきて、里麓武家屋敷群へ訪れた。石垣のみならず、生垣も整然とし、集落の雰囲気に吸い込まれていく。この景観が、あたりまえに広がっていると思ったら大間違いだろう。ここで暮らす地元の方々が、きっとこの空気感を守っている。それがどれだけすごいことで、美しいことか。
写真集を拝読し、島の雰囲気に触れることができた。ぼくが今日出会った景色というものは、あまりにも一部にしかすぎない。何より暮らしとは人の営みであり、写真集からは、島の方々の声が聞こえてきた。
というわけで、今日の散策はここまで。この日は金曜日の夜で、山下商店甑島本店が夜間営業をしていたので、思い切って行ってみた。日によって違うだろうけれど、訪れた時間帯はぼくだけだった。それでもお店のお兄さんが、ずっと話し相手になってくださった。さりげなく、いろんな気遣いをしてくださる方だった。
ちなみに山下商店さんは、とうふ屋だ。なので、おつまみメニューの「とうふ3種盛」をいただいて、その美味しさにたまげた。「美味しい!」と心底感じられる豆腐に出会えるって、とても幸せなことだと思った。
と、甑島に訪れることができて、とにかくありがたい1日でした。ここで生きている方々がいる。ぼくが知らない喜びや幸せも、きっと知っているでしょう。そもそも、そこに優劣はない。生きる喜びは、おのおのの心の泉から、湧き出るものだから。お店でお兄さんのささやかな、やさしい話を伺って、そんなことを思ったのでした。
本日のひとこと
ヤマトの配達のお兄さんと島で2回会って、2回とも笑顔で挨拶してくれて、すんごくうれしかったです。
(終わり。次回へ続きます)
<旅を応援してくださる方々へ&関連ページ>
今回の旅をはじめる前に、自費出版の写真集「どこで暮らしても」を製作しました。東京23区を1200kmほど歩いて巡り、撮影した一冊です。売り上げは旅の活動費として、活用させていただきます。
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