旅メーター
全ての駅を訪れた23区の数【0/23】
東京タワーをぐるっと。
三田共用会議所から、次は東京タワー方面の赤羽橋駅へ向かうことにした。日向坂を左折して住宅街に入ると、建物には古いアパートから少し新しいマンションまで、年代の差が伝わってくる。それは全国どこにでもある風景のようだが、遠くを見上げればやはり、目を見張るようなビルが聳えていて、東京は不思議な土地だなあと思わずにはいられない。しかし、この辺りが坂と呼ばれているように、かつては開けた土地だったのだろう。
赤羽橋駅は目の前を環状3号線、その上を首都高速が走っていて、たえず車の音が響いている。高架の下に消防車が何台も停まっていて、よく考えられたものだと思った。赤羽橋交差点から見る東京タワーは、いままで何度か見たことはあったが、すばらしい。見晴らしの良い交差点から、スカッと東京タワーを眺めることができるのだ。写真にはなかなか収まらないぐらい、近いし大きい。
芝公園駅に着いた。芝公園は芝だけでなく、お寺もあれば神社もある。もっといえば、古墳もある。芝丸山古墳がつくられたのは5世紀と言われている。都心に1600年前の古墳があることは、歴史的なことだよなあ。吉野ヶ里遺跡だって、最盛期は3世紀だったのだから。木々に囲まれた古墳を登ってみると、頂上に伊能忠敬の石碑が建っていた。測量の起点と関係するらしい。同じ日に、宮本常一だけでなく伊能忠敬にまつわる場所を訪問できた。嬉しさと不思議さが交錯する。市町村一周中、「伊能忠敬みたいだね」と言われたことがある。しかし、やはり彼にはかないっこない。だってあまりに、条件が違うもの。ぼくは文明の利器に頼り切っている。しかも彼は、50歳を過ぎてから全国を測量したのだから。歩くことへのモチベーション、そのパッションは想像しきれない。旅は困難を想像しがちだが、孤独の方が辛い。彼らにはほんとうの強さがある。
散策していると、ひとり黙々、倒立の練習をしている若いお兄さんがいた。雰囲気はシティーボーイ。だけど、何度も、何度も、練習を繰り返している。ぼくは気になってしまい、一度通り過ぎたけれど、彼のところに戻って、思い切って声をかけた。突然話しかけたぼくに、彼はやわらかな口調で話をしてくれた。たまにここで、倒立の練習をしているそうだ。
「勤めてる会社がアウトドア系で、社員の人たちを見てると、できるようになりたいと思ったんです」
写真も撮らせてもらった。倒立と東京タワーの不思議なコラボレーションだった。話も弾んで、仲良くなった。年齢は同級生、出身は北海道の函館だそうで、「ラッピのチャイニーズチキンバーガー食べたいですよね」と言ったら、さらに仲良くなった。現在は麻布でお兄さんと一緒に暮らしているそうだ。今朝出会った、麻布や広尾の人たちの優しさについて話すと、彼も頷いてくれた。
「都会の人は全員冷たいみたいなイメージ、ありますよね。でも、人は人ですからね」
是非いつかご飯行きましょう。とお別れをして、増上寺、御成門駅を散策した。増上寺には、もちろん行っておきたかったので、参拝できてよかった。お江戸の格式あるお寺だ。御成門はたしかに門が残っているけれど、どこか静かに佇んでいて、少し寂しさがあった。
さっきの彼が「愛宕神社、絶対行った方が良いっす!」と教えてくれたので、最後は愛宕神社のある虎ノ門方面へ向かうことにした。歩いた先、偶然出会い、あたらしい道を教えてくれる。ひとつ違う場所を歩いていたら、出会わなかったのだろうか。違う人と、出会ったのだろうか。その「もし」なんて、存在するのだろうか。人と人との交わりが、この東京という土地では、無限に繰り返されているのだろうか。ここにある膨大な暮らしを想像したとき、人生とはなんと不思議なものだろうかと、思わずにはいられない。
(その④で、終わります。)
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