今日までの旅メーター
訪れた政令指定都市の区の数 【44/175】
訪れた旧市町村の数【287/2,091】 総計【331/2,266】スーパーカブの総走行距離
6990km
つよくてあたたかい、生きている土地。ー南相馬市ー(日本一周85~87日目)
6月30日(金)、深く考えることはしないで、福島市から南相馬市にある「小高パイオニアヴィレッジ」という宿泊先へ向かった。1日中雨が強く降って、昼には飯舘村にある道の駅で、2時間ぐらい休憩した。
「小高パイオニアヴィレッジ」という場所は、過去に2回訪れたことがあった。一度目は2019年、二度目は2021年。初めて訪れたのは前回の市町村一周のときだ。復興拠点施設として、新しい起業家を受け入れ、人と人がつながりあい、大きな化学反応が生まれている土地だと知った。
2016年7月まで、小高地区は帰還困難区域に指定されている。一度は無人になったこの土地で、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」というミッションを掲げる運営元の『小高ワーカーズベース』の存在感は、本物だと素人ながらに衝撃を受けた。
そして、二度目の訪問は取材のカメラマンだった。すでに活動は広く知られていて、やっぱり小高の方々はすごいと同じことを思った。震災後に力強く明るく生きる方々は、いろんな地域にたくさんいらっしゃるだろう。比較ではなく、絶対値として、人として尊敬できる方々が、特に東北にはたくさんいらっしゃるのだと思う。とはいえ、ぼくは東北との関わりがすごく深いわけではないし、その中で自分が遠巻きにでも触れられる、シンボル的な場所のひとつが南相馬市、小高という土地だった。
ただ、今回は小高パイオニアヴィレッジに行くとはいっても、宿泊の予定しかなかったので、よそ者としてひっそり滞在して、もし誰かと話せる機会があればというぐらいで、翌日には出発しようと考えていた。
そして、福島市から雨に濡れて、スーパーカブで80kmほど走った。ようやくたどり着いて、合羽を脱ぎ、長靴を履き替えて、挙動不審の姿で受付に向かったわけだけれど、受付の若い男の方が、さりげなくこう言った。
「あの、今日、夜に“おばんざい会”があるんですけど、どうですか?」
ひんぎゃっ、と変な声が出そうになったが、元々挙動不審だったので、出ずに済んだ。夜にイベントがあるなんて、想定していなかった。でも、参加しないでそのまますぐに寝てしまったら、体力は回復するだろうけれど、心残りができそうだ。そうに決まっている。そもそも、小高の方々と話をしてみたかったのだ。
「参加してもいいですかっ」
裏返りそうな声でお願いした。というわけで、南相馬市の滞在が二日延びることになるきっかけが、ここではじまったのだった。
“おばんざい会”ということで、今回のイベントの担当になった方が、手料理を振る舞ってくださった。メインでご飯をつくってくださったのは、サラダのファストフード店の立ち上げに取り組む男性で、海外生活も合わせた豊富な自炊経験による“おばんざい”は、ひっくり返りそうなぐらい美味しかった。ほんとうに。
もちろん、ぼくはよそ者なので、目立つのも嫌だし、どちらかといえばひっそり過ごしていたわけだけれど、受付をしてくれた男の人が「福ちゃん(@fukutaros)」という小高のキープレイヤーだとわかって、しかも親しく接してくれて、自然に過ごすことができた。福ちゃんはぼくのひとつ年下で、小高ワーカーズベースのコミュニティーマネージャーとして働いている。ゆるさと敏腕さを兼ね備えた、とても素晴らしい人だった。
時間が経つにつれて、東京や、福島の中通りといった、小高以外で暮らす方々も混ざって、まさにいろんな化学反応が生まれていた。共通していたのは、「ここにいる方々は、絶対にみんないい人だ」という安心感だった。
予想していなかったイベントに混ぜてもらって、とても楽しかった。それをいろんな土地で毎回求めるのは違う。偶然を偶然として受け入れて、心から十分満足だ。ありがとう福ちゃん! という気持ちで、片付けも終わり、まもなく解散というところで、福ちゃんがぼそっと言った。
「そういえばあした、鞆の浦から長田さんご夫妻がいらっしゃるんですよ」
ふんぎゃっ、と声が出た。…知っている、知っている方々である。
長田涼さん(@SsfRn)、果穂さん(@cahochin)は、コミュニティーマネージャーとして幅広くご活躍されているご夫婦で、現在は福山市の鞆の浦という瀬戸内海の港町に移住されている。SNS上でのやり取りもあり、いつかはお会いしたいと思っていた。明日、ご夫婦でいっらしゃるのだそうだ。
ぼくはたまらず、
「明日、ぜひご挨拶だけでもさせてもらっていいですか…?」
とお願いをして、解散になった。
翌朝、長田さんご夫婦がはるばる広島からやって来た。
ぼくは勝手に「長田さん、存じています!拝見しています!」と勢いのご挨拶をして、ご夫婦はキョトンとされていたが、やがて、「ああ、日本をフラフラしてる人だ!(意訳)」と、認識してくださって、福ちゃんに感謝だなあと、思い残すところ無しだなあと、いよいよバイク用の防具を身に付けて再出発しようと取りかかったところ、福ちゃんがささやいた。
「えっ、今から一緒に行きますよね?」
ガツーンッ。んっ、えっ、そもそも、一人混じったら予定狂いませんか? 狂いますよね? ほんとうに狂わないんですか? と、狂ったような確認をして、仕事の流れに、真に大きな影響は出ないのだという。最終的に、
「15秒だけもらって良いですか?」
と考えて決めた。内心、85%ぐらいはご一緒すべきに決まっている、と思っていたけれど、一応、冷静になって。自分がご迷惑をかけないようにして、それでもご一緒させてもらえるのならと。
「ご一緒しても良いですかっ」
そうしてご一緒することと、延泊が決まった。(長田さんご夫婦、受け入れていただきほんとうにありがとうございました)
みなさんで訪れた場所をまとめると、南相馬市原町地区の「川口商店(&サウナ発達 宿巣)」さん、飯舘村の「図図倉庫(ズットソーコ)」さん、「コーヒーポアハウス」さん、などなど。どの場所も驚きや発見や優しさでいっぱいで、自分ひとりでは知ることのできなかった場所ばかりだった。
『サウナ発達 宿巣(@saunahattatu)』。なんてすごいんだ! 川口さんもとても素敵な方で、『サウナ発達』や『宿巣』に込めた思いも伺って、素晴らしいなあと思った。
このあと、温泉にも入って。つくづく楽しい時間に混ぜていただいた。
夜、みなさんは大事な会食があるので、ぼくは先に宿に戻って、晩御飯をひとりで食べようと思っていた。
しかし、直前で、会食のお相手の方が、ドタキャンになってしまった。
…なんとまあである。
結果的に代役として、『haccoba -Craft Sake Brewery-』さんでの食事に、ぼくもご一緒させてもらったのであった。
福ちゃんや長田さんご夫婦、そしていろんな方々に、素敵な時間をお裾分けしていただいた1日であった。
すでに、朝4時には人の気配がわずかに立ち込めていた。7月下旬に開催される相馬野馬追に向けた練習だ。練習は公式的なものではなく、練習具合の状況にもよるのだろう。しかし、あたりまえのようにこの時間から練習をしている方々がいらっしゃるということが、とても大きな刺激だった。
と、長くなったけれど、ここまでがご一緒した時間だった。小高パイオニアヴィレッジに戻って、長田さんご夫婦とお別れをし、福ちゃんと肉じゃがをつくって、ぼくも再出発した。
「旅は道連れですよ」と、福ちゃんはよく呟いた。彼もかつてはアドレスホッパーをしていた時期がある。ゆるさと心配りと明るさと、とてもカッコいい大人だ。素敵なご縁をありがとう。長田さんご夫婦や、出会ってくださった方々、ありがとうございました。また会えますように!
さて。旧市町村一周の括りとして、「旧小高町」「旧原町市」「旧鹿島町」は、すでに上記の出来事の中でいずれも訪れているのだけれど、それぞれ少しずつ自分でも巡った。
小高地区、原町地区で神社に訪れたので、統一して訪れようと思った。
宮城県に入った。
ここで、旧市町村の旅には含まれないけれど、宮城県山元町で震災遺構の「中浜小学校」を訪れた。
津波が発生したとき、屋上に残った生徒や地域の方々90人が、全員助かった。
中浜小学校で起きた出来事をまとめた映像をみた。一緒に見ていた関西風のおじさんたちも、夢中で声を上げるぐらいだった。
案内をしてくださった、震災当時は別の近くの中学校の校長先生だったという方ともお話をした。ここに立ち寄ってよかった。
旅と移動はここまで。福島県の旅も、無事に終えることができた。東北に入り、移動距離が伸びたと感じられたけれど、まずは無事に終えられてホッとしている。ホタルまつりに参加したり、いろんな人に巻き込まれて新しい出会いが生まれたり、ここで起きたことが、今回の旅だ。とてもありがたい時間になった。
宮城県の旅は準備が整い次第、再開します。
九州地方の雨がひどくなりませんように。
<旅を応援してくださる方々へ&関連ページ>
今回の旅をはじめる前に、自費出版の写真集「どこで暮らしても」を製作しました。東京23区を1200kmほど歩いて巡り、撮影した一冊です。売り上げは旅の活動費として、活用させていただきます。
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旅についての心境を、週に一度日記形式で書いています。ブログにまとめきれなかったことも残せたらと思います。
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